こんにちは。

現役の特別養護老人ホーム施設長として働いている「施設長のライフノート」です。

夏になると、介護現場で毎年のように悩むことがあります。

それが、

「水分を飲んでくれない」

という問題です。

「いりません。」

「喉は渇いていません。」

「飲むとトイレが近くなるから嫌です。」

介護職として働いている方なら、一度は聞いたことがあるのではないでしょうか。

しかし、高齢者は若い人と比べて暑さや喉の渇きを感じにくく、熱中症や脱水のリスクが高い傾向があります。

だからといって、

「飲んでください!」

と何度も強く勧めればいいわけでもありません。

介護は人と人との仕事です。

大切なのは、

なぜ飲みたくないのかを考え、その人に合った方法を探すこと。

今回は、介護現場で実際に使いやすい水分摂取の促し方と、高齢者の熱中症対策についてまとめます。

※水分量には個人差があります。心不全・腎疾患などで医師から水分制限を受けている方は、必ず医師・看護職等の指示を優先してください。

高齢者はなぜ熱中症・脱水になりやすいのか

厚生労働省も、高齢者は熱中症のリスクが高いとして注意を呼びかけています。

主な理由は次のとおりです。

① 暑さを感じにくくなる

加齢に伴い、暑さに対する感覚が鈍くなることがあります。

そのため、

「本人は暑くないと言っている」

からといって、室温管理をしなくていいわけではありません。

夏場は、本人の感覚だけに頼らず、

  • 室温
  • 湿度
  • エアコン
  • 衣服

などを職員側でも確認することが大切です。

② 喉の渇きを感じにくい

高齢者は、水分が不足していても喉の渇きを自覚しにくいことがあります。

そのため、

「喉が渇いたら飲む」では遅い場合があります。

喉の渇きに関係なく、時間を決めて少量ずつ水分を摂る仕組みをつくることが重要です。

③ 体内に保持できる水分量が少なくなる

高齢になると筋肉量などが減少し、若い人と比較して体内の水分割合が低くなる傾向があります。

少しの水分不足でも、体調に影響が出やすくなります。

④ トイレを気にして飲まない

これは介護現場では非常によくあります。

「飲んだらトイレに行かないといけない。」

「職員を呼ぶのが申し訳ない。」

「失禁したくない。」

そんな理由から、水分を自分で控えてしまう方もいます。

この場合は、

水分だけを勧めるのではなく、

排泄への不安も一緒に解決する必要があります。

⑤ 暑くても厚着をしていることがある

高齢者の中には、夏でも

  • 長袖
  • 毛布
  • 厚手の上着

を希望する方がいます。

本人の希望を尊重しながらも、熱がこもっていないか確認し、室温や衣服を調整することが必要です。

水分不足で起こりやすい変化

脱水は重症になると命に関わります。

ただ、介護現場では重症になる前の小さな変化に気づくことが重要です。

例えば、

  • いつもより元気がない
  • 食欲が落ちた
  • 尿量が減った
  • 尿の色が濃い
  • 口の中が乾燥している
  • ふらつく
  • ぼんやりしている
  • 急に落ち着きがなくなった

などです。

高齢者では脱水などの身体状態の変化をきっかけに、急性の意識混乱である「せん妄」が生じることもあります。

「認知症が急に進んだ」と決めつけず、身体状態の変化も確認することが大切です。

高齢者の水分摂取量の目安は?

厚生労働省の高齢者向け熱中症対策資料では、

1日あたり約1.2Lの飲水

を一つの目安として示し、1時間ごとにコップ1杯程度など、こまめな水分補給を勧めています。

ただし、これは全員一律のノルマではありません。

水分必要量は、

  • 体格
  • 食事量
  • 活動量
  • 発熱
  • 発汗
  • 持病
  • 服薬
  • 水分制限

などによって異なります。

施設では、看護職・医師・管理栄養士などと相談しながら、個別に目標量を設定することが大切です。

水分を飲んでくれない時に試したい7つの工夫

ここからが今回の記事の本題です。

介護現場で実践しやすい方法をご紹介します。

① 好きな飲み物を知る

一番大切なのは、

その方の好みを知ること。

です。

私たちも、嫌いな飲み物を何杯も出されたら飲みたくありません。

高齢者も同じです。

例えば、

  • 緑茶
  • 麦茶
  • コーヒー
  • 紅茶
  • 牛乳
  • 乳酸菌飲料
  • ジュース

など、その人が好きなものを探してみます。

さらに、

温度も重要です。

「冷たいお茶は嫌だけど温かいお茶なら飲む」

という方もいます。

飲み物の種類だけでなく、

  • 温度
  • コップ
  • ストロー
  • 飲む場所

まで含めて、その人の好みを考えてみましょう。

② 選んでもらう

私はよく、

「何を飲みますか?」

ではなく、

「お茶とコーヒー、どちらにしますか?」

と聞きます。

選択肢を提示すると、ご本人が決めやすくなります。

例えば、

「温かいお茶と冷たいお茶、どちらにしますか?」

「お茶とカルピス、どちらがいいですか?」

という声かけです。

介護者が一方的に決めるのではなく、

本人に選んでもらうこと

がポイントです。

③ 「味見してもらえますか?」とお願いする

これは現場で意外と効果がある方法です。

「飲んでください。」

とお願いすると拒否されても、

「新しく作ったので、ちょっと味見してくれませんか?」

と伝えると口をつけてくださる場合があります。

もちろん毎回通用する方法ではありません。

ただ、

「飲ませる」ではなく「お願いする」

という関係性になることで、自然に飲んでもらえることがあります。

④ 一度にたくさん勧めない

200mlのコップを見て、

「こんなに飲めない」

と思う方もいます。

そんな場合は、最初から全部を飲んでもらおうとせず、

「一口だけどうですか?」

「半分くらい飲んでみませんか?」

と少量から勧めます。

一度に大量に飲むより、

少量をこまめに

の方が負担が少ない場合があります。

⑤ 飲むタイミングを生活の中に組み込む

水分補給を、

「職員が思い出した時に提供する」

だけでは抜けてしまいます。

そこで、

  • 起床後
  • 朝食
  • 10時
  • 昼食
  • 15時
  • 夕食
  • 入浴後
  • 就寝前

など、生活の中に水分提供のタイミングを組み込みます。

施設全体でルール化すると、提供漏れも減ります。

⑥ トイレへの不安を聞く

「飲みたくない」の背景に、

排泄への不安が隠れていることがあります。

例えば、

「トイレに行きたくなるから嫌。」

と言われたら、

「飲んだあとはこちらから声をかけますね。」

「トイレに行きたくなったらすぐ呼んでください。」

と伝えることで安心される場合があります。

単純に水分を勧め続けるのではなく、

拒否する理由を解決する。

これは介護全般に共通する考え方です。

⑦ 飲み物以外からも水分をとる

水分は飲み物だけではありません。

例えば、

  • スープ
  • 味噌汁
  • ゼリー
  • 果物
  • ヨーグルト

などにも水分が含まれています。

嚥下状態や病気、食事制限などを確認したうえで、飲み物だけにこだわらず方法を考えることも大切です。

「飲んでください」を繰り返すだけにしない

介護現場では忙しいと、

「〇〇さん、お茶飲んでください。」

「飲みましたか?」

「まだですよ。」

と同じ声かけを繰り返してしまいがちです。

でも、何度言っても飲まないのであれば、

同じ方法を続けるのではなく、方法を変える

ことが必要です。

「なぜ飲みたくないのか?」

を考える。

  • 味が嫌なのか
  • 温度なのか
  • コップなのか
  • トイレなのか
  • お腹がいっぱいなのか
  • 飲み込むのが怖いのか
  • 体調が悪いのか

原因によって対応は全く変わります。

これこそが個別ケアだと思っています。

水分摂取量だけで評価しない

施設では、

「今日は何ml飲んだ」

という数字に注目しがちです。

もちろん摂取量の把握は大切です。

しかし、

数字だけを見るのではなく、

  • 尿量・尿の色
  • 便の状態
  • 食事摂取量
  • 発汗
  • 体温
  • 血圧
  • 活気
  • 皮膚・口腔内の乾燥

など、全身状態と一緒に確認することが重要です。

「1500ml飲めたから大丈夫」

という単純な話ではありません。

夏場は水分だけでなく「暑さを避ける」ことも重要

熱中症対策というと、

「とにかく水分!」

となりやすいですが、それだけではありません。

厚生労働省や環境省も、

暑さを避けることと水分補給の両方

を重要な予防策としています。

施設や在宅では、

  • エアコンを適切に使用する
  • 室温・湿度を確認する
  • 厚着になっていないか確認する
  • 日差しの強い時間の外出を避ける
  • 入浴後は特に水分補給を意識する

などの対応も重要です。

本人が

「エアコンは嫌い。」

と言うケースもありますが、安全面を説明しながら温度や風向きを工夫していきましょう。

こんな時はすぐに医療職へ相談する

次のような状態があれば、単なる「水分不足かな?」で終わらせず、看護職や医師へ相談します。

  • 意識がおかしい
  • 呼びかけへの反応が悪い
  • 自力で水分が取れない
  • 強い倦怠感
  • けいれん
  • 高体温
  • 嘔吐
  • 急激な血圧低下
  • ふらつきが強い

熱中症は重症化すると命に関わります。

「いつもと違う」

という介護職の気づきは非常に重要です。

施設長として夏場に意識していること

夏になると、個人の介護技術だけに頼らず、

施設全体で仕組みを作ること

が重要だと感じています。

例えば、

  • 朝礼で熱中症リスクを共有する
  • 水分提供の時間を決める
  • 摂取量が少ない方を申し送る
  • 入浴介助時の室温を確認する
  • 外出・送迎時の暑さを確認する
  • エアコンや扇風機の状態を確認する

などです。

水分介助を

「その職員が気づいたらやる仕事」

にしない。

チーム全体で取り組む。

それが夏場の事故を防ぐためには大切だと思っています。

まとめ|「飲ませる」より「飲みたくなる工夫」を

高齢者の水分ケアで一番大切なのは、

無理に飲ませることではありません。

本人がなぜ飲みたくないのかを考え、

  • 好みを知る
  • 選んでもらう
  • 声かけを変える
  • 少量ずつ提供する
  • タイミングを決める
  • 排泄の不安を解消する
  • 食事やゼリーなども活用する

といった工夫を重ねていくことが大切です。

高齢者のケアに「全員に効く正解」はありません。

だからこそ、

その人に合った正解を一緒に探す。

それが介護の面白さであり、難しさでもあると思います。

暑い夏を、利用者様が安全に元気に過ごせるよう、施設全体で熱中症・脱水予防に取り組んでいきたいと思います。

あわせて読みたい

特別養護老人ホームとは?入所条件・費用・サービスを現役施設長が解説

特養でどのような生活支援が提供されているのかを詳しくまとめています。

高齢者に喜ばれたレクリエーション10選

夏場に室内で楽しめるレクリエーションを探している方にもおすすめです。

褥瘡マネジメント加算の算定方法【実践編】

水分・栄養・皮膚状態など、高齢者の健康管理と関係の深い褥瘡予防について紹介しています。