みなさまは、自立支援介護という言葉はご存じでしょうか?
介護の基本理念は、介護が必要になったとしても可能な限りその人が望まれる生活を実現出来るように本人が出来る事は続けて頂き、出来ない所をサポートする。それが自立支援、そして介護の考えです。
年を取って出来ないことが増えたからといって、何から何まで介護者が手伝ってしまうと、その方の機能はますます低下してしまいます。
その方が、何が出来なくて困っているのか?本当に助けてもらいたいことは何なのか?そこを見極める事が介護者には必要なスキルとなります。
基本ケア
水分、食事、排泄、運動
この4つを基本にケアをすることで、高齢者を元気にしていこうという考えがあります。
高齢になると、トイレが近くなるからとあまり水を飲まなかったり、そもそも喉の渇きを感じる機能が低下してしまい、脱水傾向になることが多いです。
脱水になると意識障害が起こります。そうすると自分が、起きているのか寝ているのか、ここがどこなのかがわからなくなってきます。また、自分の尿意や便意を感じる事が出来なくなったり、感じていても訴える事が出来なくなったりします。
また、意識状態が低下しているので、歩行が不安定になり転倒リスクが高まったりします。
水分をとってもらう技術
上記の通り、水分は高齢者のケアにとって非常に大切なものです。
それはわかっているんだけど、飲んでくれないんですという話はよく聞きます。
今回は、うちの施設で行っている水分摂取量を上げるコツをご紹介します。
- 午前中の摂取量を増やす
起床時は、喉が渇いている事が多く、飲んで頂ける事が多いです。そこでまずリズムを作って、そのまま午前中のうちに目標摂取量の半分以上をクリアしておくと、午後の活動性も高まりますし、夕方の帰宅願望などの周辺症状が軽減する事例もありました。
- 水分の種類を増やす
うちの施設では、様々な飲み物を用意し、ご入居者が飽きない様にしたり、嗜好にあわせた物を提供することで、摂取量のアップを図っています。
主に、緑茶・麦茶・ほうじ茶・ゴボウ茶・スポーツドリンク・牛乳・ココア・コーヒー・ミルクティー・レモンティー・ブドウ・オレンジ・リンゴ・ヤクルトなどを準備しています。
- コップを大きくする
高齢者の中には面白い方がいて、提供されたものを全部飲み切るのははしたないと思っている方がいるようです。そのため、あらかじめ残される事を予想して大き目のコップを準備し、摂取量が落ちない様に工夫しています。普通は200mlのコップですが、300mlのコップで提供する事で、問題を解決しています。また、その方が昔から使っていたお気に入りのコップなどがあれば、それを使って頂くのも一つの手です。
- ゼリーにして提供
水分をガブガブ飲んでくれる方は高齢者にはあまり多くありません。また、先ほども申し上げた通り脱水で意識障害を起こしていると、誤嚥の可能性も高まります。
そこで有効なのが、ゼリーです。お茶やスポーツドリンク、カルピスなどにゼラチンを溶いて作成し、水分代わりに提供すると、普段飲水が進まない方であっても、あっという間に完食されることがあります。
常食にこだわる
皆様は、年を取ったらどんな食事が食べたいですか?
私は、当然ですが今と同じように好きな物を好きなように好きなだけ食べたいと思っています。しかし、高齢になってくると嚥下状態が悪化したり、歯が抜け義歯になったりと様々な問題が起こります。ここで、適切に対処してくれる理解者が近くにいればいいですが、みんながそうはいきません。年を取ってむせるからと柔らかいお粥を提供されたり、噛めないからとペースト食を出される事が多いです。そうすると、自然と食欲が低下し、食物繊維の摂取量が減り、寝たきりや便秘のきっかけとなってしまいます。
食事=生きがい・楽しみ、です。
いつまでも好きな物を食べられるように健康でいたいものです。
トイレで排泄
トイレに行って用を足す。
当たり前の事ですよね。でも、これが施設に入ると当たり前ではなくなります。
足の筋力が無くなって立てなくなったり、尿意や便意を訴えられなくなると多くの施設でオムツをされます。そしてオムツの中に排泄をすることを余儀なくされてしまいます。
最近では、多くの施設で自立支援介護が盛んになり、その人に合った排泄リズムを見つけ、適切に誘導をすれば、またトイレ排泄が取り戻せる事例も多数出ています。
勿論自分でトイレに行って、要を足して、自分で後始末をする。それが理想です。
しかし、それが出来なくなった時に、すぐにオムツを当ててしまう施設と、適切なサポートをしてくれて可能な限りトイレ排泄にこだわってくれる施設。みなさんだったらどっちに入りたいですか??
運動は歩く事
みなさんは、散歩はしますか?
私は、自己啓発の一環で「朝散歩」を行っています。
歩くことは究極の全身運動です。歩くことで喉が渇き、歩くことで腸の蠕動運動を促し、歩くことでお腹が空きます。そして、筋力や体力も維持する事が出来ます。
私が勤めている施設でも、歩く運動の時間を設けていますが、歩く人と歩かない人では、機能の差がハッキリと出てしまっています。
まとめ
現在、日本では介護費用を含めた福祉の財源が膨大な金額になっています。
そこで、国は介護状態にある高齢者に、科学的でデータに基づいた介護を提供する事でまた元気と健康を取り戻してもらおうという流れにシフトしています。
そこで注目されているのが、今日ご紹介した自立支援介護です。
水分を飲んで、覚醒状態を高め、健康的な食事をし、食べたらしっかり出す。そして、運動をして機能を維持向上する。
書くのは簡単ですが、これを実際に行うのは非常に難しいです。
綺麗ごとばかり並べている施設も多いです。
当たり前の事ではありますが、この理論を明確に実践できている施設は少ないです。
自分が働く施設、親を託す施設がこの理論をもとに、高齢者を元気にする施設なのか?それともただ死を待つだけの施設なのか?
それを見極めるのは、大切な視点です。